出典:Journal of Clinical Investigation, 2026年5月15日掲載 J Clin Invest.2026 May 15;136(10): e198519
今回の研究で分かったこと(3行まとめ)

- ウォルフラム症候群を対象とした治療薬候補「PB&TURSO」の48週間の臨床試験結果が報告されました。
- 膵臓の機能や血糖コントロールの改善・維持がみられ、視力についても安定化する傾向が認められました。
- 今後さらに大規模な試験による検証が必要ですが、治療法開発に向けた有望な結果と考えられます。
どんな研究?
ウォルフラム症候群の患者さんを対象に、PB&TURSO(フェニル酪酸ナトリウムとタウルルソジオールの配合薬)という飲み薬の効果と安全性を調べた臨床試験(HELIOS試験)の結果が発表されました。
ウォルフラム症候群では、細胞内の「小胞体」や「ミトコンドリア」という重要な構造の働きが障害され、膵臓のβ細胞や神経細胞が徐々に失われていくと考えられています。
PB&TURSOは、これらの細胞内ストレスを軽減することで、細胞を保護し、病気の進行を抑えることを目指して開発されている治療薬です。

試験の概要
- 対象: 17歳以上で、遺伝子検査によりウォルフラム症候群と診断された方
- 条件: インスリン治療を受けており、膵臓のβ細胞機能が一部残っている方
- 参加人数: 12名
- 試験期間: 48週間(約1年間)
- 試験の種類: 単施設・単一群・オープンラベル第II相試験
結果のポイント
① 膵臓のβ細胞機能(インスリンを作る力)が改善または維持される傾向がみられた
混合食負荷試験(MMTT)で測定した「Cペプチド」は、膵臓がどの程度インスリンを分泌できるかを示す指標です。試験開始時と比較して、24週および48週の時点でCペプチド反応の改善または維持がみられました。
② 血糖コントロールが改善する傾向がみられた
HbA1c(過去1~2か月の平均的な血糖状態を示す指標)の改善や、血糖値が目標範囲内に保たれている時間(Time in Range)の増加が認められました。これらの結果から、糖尿病管理の改善につながる可能性が示されました。
③ 視力の低下が抑えられた可能性が示された
ウォルフラム症候群では視神経萎縮により視力が徐々に低下していくことが知られています。今回の試験では、最良矯正視力は48週間にわたりおおむね安定しており、視力低下の進行が抑えられた可能性が示されました。
④ 患者さんと医師の両方が良好な変化を評価した
患者さん自身と担当医師が症状の変化を評価したところ、評価可能だった参加者全員が「改善」または「少なくとも悪化していない」と判断されました。また、試験前に最も困っていた症状として挙げられていた糖尿病や視力に関する問題について、改善を実感したという声も報告されました。
安全性(副作用)について
- 12名中11名に何らかの副作用がみられました。
- 副作用はすべて軽度または中等度でした。
- 多くは吐き気や下痢などの消化器症状でした。
- 副作用により治療を中止した方はいませんでした。
- 重篤な副作用や死亡例は報告されませんでした。
全体として、安全性は比較的良好であると評価されました。
この研究の意義と限界

ウォルフラム症候群には現在承認された治療薬がなく、病気の進行を抑える治療法の開発が大きな課題となっています。
ウォルフラム症候群では、膵臓のβ細胞機能や視力、神経機能などが年齢とともに徐々に低下していくことが知られています。そのため、症状や検査値が改善しただけでなく、「悪化しなかった」こと自体にも大きな意味があります。
今回のHELIOS試験では、膵臓機能、血糖コントロール、視機能など複数の項目で改善または安定化がみられました。特に、進行性の病気であるウォルフラム症候群において、症状や検査値の悪化がみられなかったことは重要な結果と考えられます。
一方で、この研究は参加者12名の小規模な試験であり、比較対象となるプラセボ(偽薬)群もありませんでした。そのため、今回の結果だけで薬の有効性が完全に証明されたわけではなく、今後さらに大規模な臨床試験による確認が必要です。 それでも、本研究はウォルフラム症候群に対する治療薬開発の前進を示す有望な成果として注目されています。
今後について
HELIOS試験は現在も継続中です。
今回の結果を受けて、PB&TURSOのウォルフラム症候群に対する開発は今後も継続される予定です。将来的により大規模な試験が行われることで、この治療法の有効性や安全性がさらに明らかになることが期待されます。
※本記事は専門論文をもとに患者さん・ご家族向けにわかりやすく作成したものです。治療に関するご判断は、必ず主治医の先生とご相談ください。

